ラドンとは何か?

ラドン(Rn)は、土壌や岩石に含まれるラジウム(Ra)の壊変によって生じる自然起源の放射性ガスです。無色・無臭・無味であり、地中から建物のすき間などを通じて屋内に入り込み、換気の少ない環境では蓄積することがあります。ラドンは一般公衆の電離放射線被ばくの最大の要因であり、屋内濃度は地域や建築条件によって大きく変動します。

測定と単位: Bq/m³(ベクレル毎立方メートル)は空気中の放射能濃度の単位で、ラドンの評価に広く用いられます。


健康への影響

世界保健機関(WHO)は、ラドンが肺がんの主要な原因の一つであることを確認しています。

  • 非喫煙者では、世界的に最も重要な肺がんの原因です。
  • 喫煙者を含めた全体では、喫煙に次ぐ第2の肺がん原因とされています。

ラドン被ばくが増えるほど肺がんのリスクは上昇し、喫煙と組み合わさるとその影響は相乗的に強まります。例えば、喫煙者が高濃度のラドン環境に長期間さらされると、肺がんの発症リスクは非喫煙者に比べて約25倍に達することが報告されています。

世界のラドン(Rn)対策の現状

— 基準値・制度・専門家認証と測定標準 —


国際的な指針(ベースライン)

  • WHOは住宅の参照レベルを100 Bq/m3 とし、各国事情で困難な場合でも 300 Bq/m3 を上限とする方針を示しています(しきい値ではなく、これ以上は強く対策を促す基準)。
  • EU(2013/59/Euratom)は、加盟国に全国参照レベル(≤ 300 Bq/m3)と国家ラドン行動計画の策定を法的に求め、職場にも参照レベル(≤ 300 Bq/m3)を設定させています。

主な国・地域の基準例(住宅)

  • 米国:EPAの「行動水準」4 pCi/L ≈ 150 Bq/m3(2–4 pCi/L でも低減を検討)。
  • カナダ:200 Bq/m3(超過時は是正、ALARA の考え方を併記)。
  • 英国:200 Bq/m³(“Action level”)。
  • ドイツ:住宅・屋内職場の参照レベル 300 Bq/m3(StrlSchG/StrlSchV)。
  • ※多くのEU加盟国は ≤ 300 Bq/m3 を採用。WHOの 100/300 方針が各国基準の共通参照点です。

専門家の認証(測定・低減)

  • 米国
    • NRPP(AARST運営)— 人材認証が ISO/IEC 17024 で ANSI 認定。測定・低減の資格区分とANSI/AARST 規格準拠を要求。
    • NRSB — 測定/低減スペシャリストやラボ等を認証。州制度と連携。
  • カナダ:C-NRPP が測定・低減プロ資格を運用(Health Canada 指針と整合)。
  • 英国・EU:各国の制度で機関・ラボの適合性評価(例:UKHSA の測定機関バリデーション、UKAS の ISO/IEC 17025 試験所認定)を活用。

測定の標準化と QA/QC

  • 長期(通常2か月以上)の統合測定を基本に、受動サンプリング法や連続測定を場面で使い分け。国際規格 ISO 11665 系列(例:Part 1 原理・方法、Part 4 統合測定、Part 6 短時間測定)に基づく**品質管理(QA/QC)**が各国プロトコルの土台です。
  • 国や自治体はラドン地域(リスク地帯)の把握・地図化、建築時の予防措置(防湿・シール、配管準備など)を組み合わせ、参照レベル超過時は低減工法(例:床下減圧)を推奨します。

日本におけるラドンの現状


1. 日本におけるラドン(Rn)の現状:国の方針・情報発信の課題


規制・制度の現状

日本では、住宅の屋内ラドン(Rn)に関する全国的な参照レベル(基準値)や、国としての包括的なラドン対策プログラム(ナショナルプログラム)が未整備です。さらに、測定・低減に従事する専門家に対する国の資格・認証制度や、建築段階での必須予防措置も全国一律には定められていません。

要点:日本には、他国で整備されているような

  • 住宅の全国参照レベル
  • 国の行動計画(測定標準・データベース・建築時の予防・対策ガイド)
  • 専門家の国家認証 といった柱が現時点で整っていないため、中立で実務的な情報提供と人材育成を担う民間・学術の役割が重要です。

環境省の示す数値(出典:UNSCEAR 2006)

前項で述べたとおり日本には全国参照レベルやナショナルプログラムが未整備ですが、環境省の解説ページでは、日本の屋内ラドン(Rn)濃度の算術平均は 16 Bq/m3で、世界平均 39 Bq/m³より低いと紹介されています(出典:UNSCEAR 2006)。

詳しくは環境省のページをご参照ください:https://www.env.go.jp/chemi/rhm/current/02-05-08.html

なお、同じ出典(UNSCEAR 2006 の国別表)には、日本の最大値 310 Bq/m3、幾何標準偏差(GSD)1.8も記載されています。これは分布のばらつきと高濃度住宅の存在を示すもので、平均値のみではリスクの全体像を捉えきれないことに留意が必要です。


同じ出典に書かれている重要な事実

環境省が出典として挙げるUNSCEAR 2006報告書の同じ国別表には、日本の最大値が310 Bq/m³、幾何標準偏差(GSD)が1.8と明記されています。
→ これは、分布の幅が大きい(ばらつきが大きい)こと、そしてWHOの参照レベル100 Bq/m³を超える濃度が実際に観測されていることを示します。


なぜ「平均だけ」では不十分なのか

ラドン濃度は一般に対数正規分布をとり、上位尾部(高濃度側)がリスクを左右します。平均値だけを強調すると、高濃度の住宅が存在する現実や、個々の家庭での測定と対策の必要性が見えにくくなります。


読者へのポイント

  • 「日本の平均は低い」=「自分の家も安全」とは限りません
  • まず測る(標準化された手順と品質管理(QA/QC)に基づく長期測定)
  • 必要なら下げる(WHO参照レベルは100 Bq/m3。やむを得ない場合でも300 Bq/m3以下)
  • JARSTは、平均値だけに依らない中立的で実務的な情報提供を行い、測定の普及と低減対策を後押しします
出典: 環境省「屋内ラドン」(UNSCEAR 2006報告書に基づく記載)/UNSCEAR 2006 Annexの日本国データ表/WHO『屋内ラドン・ハンドブック』


2. 文化的背景:ラドン温泉の宣伝と社会的イメージ

日本各地の「ラドン温泉/ラジウム温泉」では、ラドンの“高濃度”や効能をうたう宣伝が一般的です。例として、三朝温泉の宿は「高濃度のラドン含有量を誇る世界屈指の放射能泉」と掲げ、集客の核に据えています。

また、同温泉の施設では「高濃度のラドンをミスト状に充満」と明記し、ラドン熱気浴室の濃度 1,450 Bq/m3(JAEA 測定)と具体数値まで公表しています。

さらに自治体系の返礼品ページでも「高濃度のラドンを吸う温泉」と表現して販売促進に使われています。

このような情報発信が広く流通しているため、一般には「ラドン=健康によい」という社会的イメージが形成されています。ここでは、宣伝実例が高濃度のラドンを前面に出している事実だけを共有します。



3. 相反するメッセージ

環境省の説明は、日本ではラドン(Rn)がほとんど問題にならないかのように示しています。

一方で、各地のラドン温泉は高濃度のラドンを積極的に宣伝しています。

両方が同時に真実であることはできません。

観光客か一般の人々のどちらか一方が誤解させられているということです。



WHOハンドブック(日本語版)PDF
屋内ラドンに関する世界的なガイドラインと科学的根拠をご確認ください。
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なぜ今、ラドン対策が必要なのか?

日本ではラドンに関する認知度が非常に低く、法的な基準や対策制度も十分に整備されていません。しかし、目に見えず感じることもできないラドンこそが、静かに健康を脅かす「見えないリスク」であることを、私たちはもっと理解する必要があります。

住民の健康を守るためには、正確な測定・評価専門的な低減措置、そして社会全体での啓発が不可欠です。JARSTは、科学に基づく信頼性の高い情報と専門家ネットワークを通じて、日本におけるラドン対策の基盤を築くことを目指しています。